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「どうも、済んまへんでした」
「さあ、どうぞ。ずつとお通り下さい」
今泉は一寸いやな顔になりかけたが、
「何でもいゝから早くしてくれ。路をまちがへて大廻りしちやつたんだ」
「なんだつて、脳溢血?――そいつあ大変だねえ」
「あゝ、えらかつたなあ」
「ふむ、トンネルのハッパだな」
――だが、作者がこんな説明をしている間ぢう、房一はそこで愚図々々と立つていたわけではなかつた。何かしらあての外れたやうな気がすると同時に、房一は漠然と庄谷の気持を見抜いた。彼はそんなことで悄気しよげるやうな性質でもなかつたので、ほんの路傍の挨拶だけで別れると、さつさと上手に歩いて行つた。
「居なくたつて訴訟はいくらでもできらあね」
「へゝえ、わしらは用意がえゝですからね、あんな蜜柑箱みたいなもんはすぐこはれるにきまつてるから、家を出るときこゝにつけて来たんでさあ」
「去年はなかつたんですよ。何でも博労ばくらう同士のうちわ揉もめがあつたとかでね」
「どうでした」
あのことだな、と房一は思つた。訊いてどうかな、とは感じたが、相手があまりさつぱりしているので、