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    と、誰かが大声で叫んだ。

    と云ふ疳高かんだかい大きな声があたりに響きわたつて房一を面喰せた。

    「おい、ビールをくれ」と、しやがれた低い声で云ふと、土間の安テーブルの前に腰を下した。

    「よからう」

    むかしからおれとこの人とは仲よしだつた――それは押しかくすことのできない悦ばしさだつた。

    「いや、そのうち又ゆつくり話さう」

    と、道平は明かに盛子に気兼ねをしているらしかつた。

    房一の魚籠びくをのぞいて、盛子はびつくりしたやうに叫んだ。

    控へ目に坐つて、注いだ茶碗を盆の上に揃へると、

    それはまさに、多くの矛盾、手前勝手を含んでいたにかかはらず、たつた一つの調子は常に変ることなく、何となく相手の耳に沁みこむ響を持つていた。それは、両親に絶えず圧迫され、理想化され、重荷を負はされて来た弱い子供の魂だつた。事実、彼は子供の頃から機械だの細工物だのいふ方面に特色のある才能を現していた。さういふ物をほしがつた。写真機、蓄音機、機関車の模型、それらをせがみ、片つぱしからこはし、次々と倦きて行つた。その倦きつぽさが正文を不安がらせた。殊に、そんな高価な玩具だの遊び道具は正文にとつて一種の贅沢物だつた。或る時、正文は思ひ切つて、それらの物を練吉から取上げた。造る物を見つけるとこはしてしまつた。抑圧した方がいゝと考へたものか、又欲しがる通りに与へて果していゝ結果になつたかどうかわからないが、いづれにしてもこの事は深く練吉の子供心を悲しませた。

    「あん」

    「徳さん、君は草履ばきぢやないか」

    我々はそれから「き」の字橋まで口をきかずに歩いて行ゆきました。……

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