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「もう遅いんですよ、おぢいさん。泊つてつたらどうです」
「君達は一体何者だ!」
河原町の部落がそれに沿つて長く伸びているあの川は、この附近では単に吉川と呼ばれているが、町の少し上手では二つの支流を合したものとなつているので、それにも各々ちがつた名がついていたが、こゝから更に下流になると、はるか下手の河口にある町の名をとつて吉賀川となるのである。
「それで、――どうかね?」
房一は無意識に微笑しながらその眼を迎へた。正文はそこに、医者といふよりはまだ世間慣れのしない弁護士のやうな男が、土饅頭を思はせるやうな円まつちい顔を一種恭々うやうやしげな面持でかしこまつているのを、その厚いふくれた唇が不器用な微笑を浮べているのを見た。それは何となく可笑をかしみのあるものだつた。
「さうだ、君はあの時の射撃大会に出たさうだね」
「さうですね。さつきからどうもさうらしいと思つていたんですが、失礼しました」
「さうだね。まさか医者の家に古障子の玄関といふわけにもいくまいね」
「何をするかつ」
「あの婆さん(家主のこと)自分の掘った温泉だから、意地をはって、ガタガタふるえながら、はいってる。絶え間なくタオルで身体をこすりながら、はいってる」
「さうですか、さうですか。それは、いや、ごていねいなことで」
房一は椅子から立ち上つた。
私はもともとヌル湯好きで、いつまでつかっても汗のでない程度が好きだ。